人生、トラブルはつきものだ。それが金銭になると解決するまでに、かなり時間を要する。サッカー界でも移籍、給与などで問題が発生している中、日本人も例外ではない。その一人がFC岐阜、横浜FC等でプレイした「渡邉 将基」である。
今回は渡邉のエージェント(代理人)に触れながらDRC(Dispute Resolution Chamber ※紛争解決室)のHPから発行されている英語文PDFファイルを和訳して、考察していく。エージェントより仲裁についての内容が多くなってしまったが新たな挑戦として記事してみた。
マレーシアまでの道のり
渡邉は2017年2月前後に「JSP」とクライアント契約(諸説あり)し、仲介人取引一覧17年版でよると「(21-041)西澤 明訓」がクラブと交渉したとあり、日本では仲介してもらうのはこれ一度のみ。19年にマレーシア「Perlis FA」に移籍以降もJSPに籍を残している。※22年1月現在は抹消
何故マレーシアで選んだのか?マレーシア生活情報サイト「MTOWNLIFE.my」単独インタビューによると大学時代の同期がタイサッカーチームに練習場等の様子を見させてもらった時、東南アジアに興味を持ったという。
一か月後に給料未払い問題でチームを追放され、「FELDA United」へ移籍し、詳細なデータは残っていないが1シーズンのみで8試合出場している。この時は日本人ではなく、マレーシアのエージェント「Exeliq Sports Management」創立者「Faidauz Azhar」が担当する。
横山FCを退団しネットで調べても
行方が分かっていなかった渡邉将基1月末にマレーシアクラブ「Felda United FC」に移籍していた模様
仲介したと思われるのはマレーシア系「Exeliq Sports Management Sdn Bhd」
「Faidauz Azhar」という男#yokohamafc #横浜FC #FAM pic.twitter.com/WwPHpce0GW— jun jun@im not agent (@junjunjun351) February 24, 2019
不完全燃焼のままシーズンが過ぎ、翌年1月にFaidauz氏の力を借りる形で「Kelantan FA」へ移籍を果たすが、これが二度目の給与未払いに巻き込まれるとは当時は想像していなかったのだろう。
資料から見える給与未払いの全貌
20年10月までにクラブから給与が支払れていないことで渡邉は同年12月にFIFAに、この件について訴えることを決意。
↓DRCから発行された資料の和訳がこちら。判決を仲裁人に委ねた。因みにアメリカ人「Jon Newman」という人物がこの裁判を担当。
参考:https://digitalhub.fifa.com/m/3e1c9e1b0cb7ebfa/original/Watanabe.pdf
・渡邉正樹(「申立人/原告」または「プレーヤー」)はクラブ「クランタンFC(以下「被告」または「クラブ」)が雇用を契約する。2020年2月20日から2020年10月30日まで有効な契約。
・契約のスケジュールAに従い、申立人は月給4,000米ドルを受け取る権利があり、その給与は翌月の7日までに支払われる必要があり、契約のスケジュールBに従って、申立人は、とりわけ、以下の利益を受ける権利がある。
↓
家/アパート-最大RM1,500.00 /月の賃貸料。プレイヤーがクラブが提供できる以上の家/アパートを借りたい場合、賃貸料の差額はプレイヤーが負担しなければなりません。
-クラブは日本への帰りの航空券をプレーヤーと最大2人の家族にのみ支払います。
・2020年11月27日、申立人は被申立人に通知を送信し、2020年4月、5月、6月、7月、10月の約5ヶ月分の合計金額20,000米ドルに相当する給与を支払わなかったことを示す。およびおよび2020年6月、7月、8月、9月、10月の彼の住宅賃貸手当は、MYR(Ringgit Malaysia)の合計金額7,500に相当します。
・2020年12月1日、被告は、とりわけ次のように述べて、申立人の通知に返答。
「私たちはすべてのケランタンFCプレーヤーに、Covid 19により、3か月(2020年4月から2020年6月)の延滞給与が50%で支払われることを発表しました(「和解提案」)。2020年7月以降は給料を全額支払っていた。今回の決済提案では、クランタンFCの22名全員が支払い提案を受け入れ、2020年10月現在、未払いの給与はすべて決済されています。残念ながら、渡邉正樹氏だけが支払いを拒否しました。
私たちは、クラブに対する彼の主張を、未払いの給与に対して和解案を提示したので、軽薄で、嫌悪感があり、受け入れられないと考えていますが、彼はそれをすべて拒否しました。 そのため、2020年4月から2020年6月までの決済オファーに従って50%(合計6,000-00米ドル)でのみ支払うという決定を支持し、2020年10月の給与については30%の控除(合計2米ドル)があります。 」
↑これに関連して、申立人は、クラブの所有者であるNorizam Tukiman氏に、50%の給与控除の提案は受け入れられないことを直接通知。
・2020年12月22日、申立人はFIFAで被告に対して請求を提出し、FIFADRCが申立人に総額91,857MYRを授与するよう要求しました。
–2020年4月、5月、6月、7月、10月の未払い給与として20,000米ドル(80,000リンギット)。
・DRC裁判官はあらゆる観点から全額支払う義務があると判断し、申立人渡邉正樹の請求を受理し、被告であるケランタンFCは、原告に次の金額を支払う必要があります。-未払いの報酬として20,000米ドル。
-住宅/アパートの賃貸料として7,500リンギット。と
-航空券の費用として1,027.29米ドル。
5,000スイスフランの罰金が被申立人に課せらる。
渡邊の代表として付いているのがマレーシアサッカー選手協会(PFAM)法務責任者である「Muhammad Azzairi Rosle」 。マラヤ大学出身で法学位を取得しており、政府機関で検事総長を務めていた人物である。
被告側は渡邊所属していたクランタンFCオーナー「Norizam Tukiman」は投資家で株式市場で数々のビジネスを成功させており、いくつかの有限会社の取締役会のメンバーでもあり、マレーシアで影響力を持っている人物でもある。
当時クランタンFCは財政難で苦しんでいており、Norizam氏がクラブを買収したことで破産から救い出した英雄である。一方で選手たちの給与に対して50%カットを要求したが渡邊のみ拒否した。
この未払い問題はマレーシア国内で大きく取り上げられ、PFAMはNorizam氏を非難した。実は給与未払いが渡邊だけでなく、元同クラブ選手が4人もいたので問題は深刻だったからだ。
結局DRCの判決を受け、マレーシアサッカー協会(FAM)はNorizam氏に未払い金額分を選手に支払うよう指示する。Norizam氏はスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴していないようだが彼のFacebookによると、申告側に対して不満をコメントしていたようだ。
その数か月後にNorizam氏はインドネシア2部「PSPS Riau FC」買収を発表した。元々給与支払う能力があったのなら、ここまで大きくなることはなかったのだが、マレーシアのみならずアジア全体で選手とクラブ、エージェント等との間で問題が発生している現状がある。
その後クランタンFCは改革を推し進め、コーチスタッフから選手を入れ替えた。21年にはチーム全体の90%がクランタン出身の選手で構成され、海外からイタリア人監督を招聘する。しかし、様々な問題が発生しているようで、まだまだクラブ内の全面的な解決は遠い。
新たなクラブを探して
渡邊は20年12月マレーシア「TFC Ⅱ」に1シーズンプレイし、翌年退団。現在フリーである。マレーシアを去り、現在は日本に帰国しているようだ。
現在は「88 GROUP」という事務所に所属しているようだが詳細は不明。オーナーは誰なのか?どのようなきっかけで契約までに至ったのか?海外でプレイした気持ちがまだ冷めていないかもしれない。
またJFAエージェントとの接触も報告受けていないので今後の展望は不透明。コロナ感染が再度広がり始めている状況で海外が難しいなら日本でのプレイもいいのではないかと思う。
~~終わり~~
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