資料からみるエージェント事情2022年(イングランド編)

仲介人取引一覧

2022年4月初頭にイングランドサッカー協会(FA)から仲介取引に関する資料が数年ぶりに2シーズン分まとめて公開された。かなり膨大なデータ量で下部リーグまでを網羅している。その中でプレミアリーグでプレイしている日本人についても掲載されており、そこから見える情報は非常に興味深いものである。

今回は日本人選手に関しての交渉内容とエージェントを紹介し、イングランドにおけるクラブ側仲介で支払った手数料についてグラフにしたので、ご紹介する。

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冨安 健洋

もはや日本代表では無くてはならない選手として君臨している「冨安 健洋」。ベルギー「STVV」でプレイした後、イングランド「アーセナル」からオファーを受け、21年8月に1年延長付きの4年契約を果たした。違約金は推定で日本円で約30億円(1980万ポンド)と言われている。

Tomiyasu seals Arsenal move
Japan international completes deadline day transfer

元々は香川真司、酒井高徳等が所属している「UDN」のクライアントで冨安を担当しているエージェントが「(22-194)藤田 邦広」である。注目はアーセナル移籍でUDNの他にイングランド代表「リース・ジェイムズ」や「ハカン・チャルハノール」と世界トッププレイヤーを揃えている「UNIQUE SPORTS GROUP」が関わっていること。

UNIQUEはロンドンとドイツに本社があり、南米ブラジルにもネットワークがあるという。
どのような経緯でUDNとUNIQUEとの繋がりが始まっているのか不明だが、ベルギーでの冨安のプレイが評価されたことは間違いないだろう。

武藤 嘉紀

ドイツ「FSVマインツ」での活躍が評価され、イングランド「ニューカッスル」へ移籍金14億円(1100万ポンド)で加入する。しかし満足にプレイする出場機会がなく、20年9月にスペイン「SDエイバル」へ期限付き移籍し、翌年チーム復帰後にニューカッスルとの契約を解除し、退団している。

今回の仲介資料には”Contract Cancelled(契約解除)”によるもの。武藤のエージェントは吉田麻也等、日本人選手を担当している「CAA BASE」の「Joel Patrick」であり、インスタグラムでクライアントとともに食事している写真が確認されている。

CAAは数多くのエージェントが在籍しており、クライアントの一つの移籍に対して複数で協力することがある。また世界中にあるコネクションを構築しており、他事務所のエージェントとのネットワークも充実している。近年の日本人選手の海外移籍に多大な影響を与えているCAA。Jリーグで活躍している選手の中にも既にCAAと契約しており、いつ欧州へ移籍してもおかしくないことは言うまでもない。

川辺 駿

サンフレッチェ広島ユースでジュビロ磐田への期限付き移籍し、出場機会を得たことで彼の持っていた才能が開花し、復帰後レギュラーとしてプレイ。21年3月に念願の日本代表に初選出され、同年7月にスイス名門「グラスホッパー・クラブ・チューリッヒ」への完全移籍を果たし、その年はリーグ戦27試合出場6ゴール2アシストを記録している。

22年1月にグラスホッパーと提携しているイングランド「ウルヴァーハンプトン ワンダラーズFC」への完全移籍が実現され、シーズンが終了するまでグラスホッパーへ期限付き移籍するとのこと。この一連の取引を日本大手事務所「ジェブエンターテインメント」代表取締役「(22-091)田邊 伸明」が交渉したと明記されている。

当時オミクロン株が蔓延していたヨーロッパでは現地入りするのに隔離期間2週間があり、なかなか海外での活動が難しい情勢であったこともあり、事務所スタッフかパートナーが代わりに直接クラブと交渉した、もしくはZoom等といったアプリでコミュニケーションを取っていたと思われる。

三苫 薫

川崎フロンターレ下部組織で育ち、筑波大学を経て、20年に帰ってくる形で川崎に入団。その年でリーグ戦ベストメンバーに選出され、天皇杯2連覇にも貢献。翌年には日本代表にも選ばれ、22年3月オーストリア戦アウェイで2得点を決める。

今回の交渉は東京オリンピック2020終了後、イングランド「ブライトン」へ完全移籍時に行われたもので三苫のエージェントである「(22-115)関根 圭祐」が担当したとされる。

どのような形で三苫と関根氏が出会ったのかは語られていないが、何か両者惹かれるものがあったのではないかと推察される。末永く関係が続いて欲しいものである。

格差が広がる仲介手数料

最後に過去7シーズンをまとめた各クラブがエージェントに支払った金額をグラフにまとめたのでご覧頂こう。

 

~プレミア~
15-16:£46,582,843(約76億円)
16-17:£174,227,243(約280億円)
17-18:£211,011,187(約340億円)
18-19:£260,664,118(約420億円)
19-20:£263,368,860(約424億円)
20-21:£272,220,223(約439億円)
21-22:£272,559,227(約439億円)

~チャンピオンシップ~
15-16:£6,985,109(約1億1000万円)
16-17:£42,429,498(約68億円)
17-18:£42,183,048(約67億円)
18-19:£50,481,293(約81億円)
19-20:£49,299,123(約79億円)
20-21:£40,753,529(約65億円)
21-22:£44,378,940(約71億円)

~リーグ1~
15-16:£658,791(約1億円)
16-17:£3,098,508(約4億円)
17-18:£3,527,338(約5億円)
18-19:£5,559,679(約8億円)
19-20:£3,921,805(約6億円)
20-21:£3,082,105(約5億円)
21-22:£4,426,888(約7億円)

~リーグ2~
15-16:£163,334(約2600万円)
16-17:£821,450(約1億3200万円)
17-18:£958,969(約1億5400万円)
18-19:£940,555(約1億5100万円)
19-20:£1,170,220(約1億8800万円)
20-21:£1,069,115(約1億7200万円)
21-22:£1,285,606(約2億700万円)

~ナショナル~
15-16:£5,550(約890万円)
16-17:£271,065(約4300万円)
17-18:£188,869(約3000万円)
18-19:£378,605(約6100万円)
19-20:£319,634(約5100万円)
20-21:£271,838(約4300万円)
21-22:£576,528(約9200万円)

参考:https://www.thefa.com/football-rules-governance/policies/intermediaries/intermediaries-transactions

もはや、格差が広がっているとしか言いようがない結果となっている。リーグ2(実質4部)、ナショナル(実質5部)のデータが見えないくらいに。

ここ7年間で各リーグ別に支払った金額が数倍に跳ね上がっていることが分かる。プレミア、チャンピオンシップは約6倍、ナショナルに関しては約10倍だ。

過去の記事で取り上げた元ドイツ代表「メスト・エジル」等をマネジメントしている弁護士「Erkut Söğüt」が示唆していたように2部以降のクラブが支払う平均仲介手数料が約16%であることから22年に開始されるエージェント制度により、プレミアとの格差がより加速すると予想される。

~~終わり~~

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